キッチンや浴室の換気扇とは別に、天井や壁についている小さな換気口。24時間つけっぱなしになっているこの仕組みを、うるさいから、電気代がもったいないからと止めてしまう人がいます。実はこれ、法律で設置が義務づけられている装置です。なぜ止めてはいけないのか、仕組みから見ていきます。
24時間換気システムとは、そもそも何のためにあるのか
24時間換気システムは、部屋の空気を機械の力で入れ替え続けるための設備です。結論から言うと、これは建材や家具から出る化学物質を室外に排出し続けるための仕組みです。
2003年の建築基準法改正で、新築住宅にはこの設備の設置が義務化されました。背景にあったのはシックハウス症候群です。接着剤や塗料に含まれるホルムアルデヒドなどの化学物質が室内にたまり、頭痛やめまいを引き起こす健康被害が社会問題になりました。窓を開けて換気すれば同じ効果は得られますが、真冬に窓を開け続ける人はいません。だから機械で強制的に空気を動かす仕組みが必要になったわけです。
たとえば築15年のマンションに住んでいるとします。リビングの隅にある丸い換気口から、常に外気がわずかに流れ込んでいる。反対側の壁にある換気扇が、汚れた空気を外に吐き出している。この一方通行の流れが24時間続くことで、部屋の空気は数時間ごとに入れ替わる計算になります。
ここで迷いやすいのが、古い賃貸住宅の場合です。2003年より前に建てられた物件には、この設備自体がついていないことも珍しくありません。その場合は自分で窓を開けて換気するしかありません。設備の有無は、入居前に確認しておいたほうがいい点です。
スイッチを切ると、部屋の中で何が起きるのか
スイッチを切ってしまうと、空気の入れ替えが止まり、湿気と汚染物質が室内にたまり続けます。目に見える変化はすぐには出ませんが、数日から数週間かけてじわじわと進みます。
仕組みはこうです。人が呼吸をするだけで二酸化炭素が増え、料理や入浴で水蒸気が発生します。ふだんはこれらが換気口から少しずつ外へ抜けていきますが、システムを止めると行き場を失います。二酸化炭素濃度が上がると、集中力の低下や眠気につながることが知られています。湿気は窓のサッシや壁の内側で結露を起こし、それがカビの温床になります。
具体的な場面を挙げます。冬場、寝室のシステムを「音が気になるから」と止めて2週間ほど過ごしたケースでは、朝起きたときに窓ガラスがびっしょり結露していたという報告がよくあります。カーテンの裾に黒い点々が出てきたら、それはすでにカビが繁殖し始めているサインです。一度発生したカビは、掃除しても壁紙の内側に胞子が残ることがあり、完全に取り除くのは簡単ではありません。
ただし、すべての部屋で同じ速度で悪化するわけではありません。日当たりがよく風通しのいい角部屋なら、多少止めても影響は出にくいでしょう。逆に北向きの部屋や、窓が小さい部屋は湿気がこもりやすく、影響が早く出る傾向があります。部屋の条件によって差があることは知っておいて損はありません。
フィルターを掃除しないと、換気の効果は落ちるのか
答えは、落ちます。フィルターにほこりが詰まると、空気を取り込む力そのものが弱くなり、24時間回していても実質的な換気量は減ってしまいます。
換気口には多くの場合、フィルターが取り付けられています。これは外からの虫やほこりの侵入を防ぐためのものです。しかし、このフィルターは時間とともに目詰まりします。目詰まりが進むと、ファンは同じ電力で回っているのに、通過できる空気の量が減っていきます。エアコンのフィルターと同じ発想ですが、こちらは天井裏や壁の中にあることが多く、存在を忘れられがちです。
たとえば、入居してから一度もフィルターを外したことがない部屋があるとします。3年もすると、フィルターの網目が灰色のほこりでほぼふさがっていることがあります。この状態では、スイッチはついていても実際の換気量は新品時の半分以下に落ちていることも珍しくありません。見た目には動いているので気づきにくいのが厄介なところです。
掃除の頻度に決まった正解はありませんが、目安として半年に一度、フィルターを外して掃除機でほこりを吸い取るか、水洗いできるタイプなら洗って乾かす、という運用が現実的です。ここは物件によって構造がかなり違うので、掃除の仕方が分からない場合は無理に分解せず、管理会社に確認したほうが安全です。
換気口をふさいでしまう人が多いのはなぜか
結論を言うと、換気口をふさぐ理由の多くは「寒い」「虫が入る」「見た目が気になる」の三つに集約されます。しかし、どの理由であっても、ふさいでしまうと換気の仕組み全体が崩れます。
換気システムは、給気口から入って排気口から出るという一方向の流れを前提に設計されています。家具の裏に給気口がある部屋で、家具を壁にぴったりつけてしまうと、そこだけ空気の通り道が塞がれます。すると、その部屋には十分な空気が入ってこなくなり、他の部屋の換気口から余計に空気を吸おうとする力が働きます。結果として、家全体の空気の流れが偏ってしまうのです。
よくある場面としては、ワンルームのベッド脇にある給気口を、冬の隙間風が気になって布や紙でふさいでしまうケースです。本人としては「寒さ対策のつもり」ですが、これをやると部屋の空気がこもり、翌朝に頭が重い、なんとなく息苦しいと感じることがあります。二酸化炭素濃度が上がっている可能性があります。
例外として、換気口に「フィルター付きで開閉調整できるタイプ」がついている場合は、多少絞る分には問題ないこともあります。ただし、完全に閉じてしまうのは避けたほうがいい。どうしても寒さが気になる場合は、給気口の位置を変えるのではなく、給気口の近くに家具やベッドを置かない配置で対応するのが現実的な落としどころです。
冬に電気代を節約したくて止める、その判断は正しいのか
先に結論を言うと、電気代を理由に24時間換気を止めるのは、あまり割に合わない判断です。換気システムのファンは消費電力が小さく設計されているため、止めて浮く電気代はごくわずかしかありません。
仕組みを説明します。一般的な住宅用の換気ファンは、消費電力が数ワットから十数ワット程度のものが多く使われています。これは電球一個分にも満たない場合がほとんどです。24時間つけっぱなしにしても、月々の電気代への影響は数十円から百円台に収まることが多いとされています。一方で、換気を止めることで発生するカビや結露は、除去のための洗剤代やクロスの張り替え費用、健康への影響という形で、電気代の節約分をはるかに超えるコストになりかねません。
ここは実際に迷うところだと思います。真冬、窓際の給気口から冷たい風が入ってくるのを感じると、止めたくなる気持ちはよく分かります。ただ、この冷たい空気の流入は、家の中の汚れた空気を外に出すためのいわば代償です。止めてしまうと、代わりに得られるのは静けさと暖かさだけで、その裏で湿気とカビのリスクが静かに積み上がっていきます。
例外的に判断が分かれるのは、長期不在にする場合です。1週間以上家を空ける旅行や出張の際、電気代を気にして止める人もいますが、この場合はカビが発生するほどの時間ではないことが多く、実害は出にくいとされています。とはいえ、帰宅後は必ずスイッチを入れ直すのを忘れないようにしたいところです。切ったまま存在を忘れてしまうケースが、実は一番多い失敗パターンです。

